学芸員エッセイ その32「坂本乙女と吉行」

坂本乙女と吉行

 龍馬の生まれたまち記念館では現在、3月4日から高知県を挙げて始まる観光キャンペーン「志国高知 幕末維新博」に合わせて、様々な取り組みを進めています。同博は、2017年を「大政奉還150年」、2018年を「明治維新150年」と位置付け、幕末・明治の歴史を振り返ることで、県内外に高知をPRする一大イベントです。同博開始日には、高知市中心部に「高知城歴史博物館」もオープンし、近年新たに発見された坂本龍馬の手紙も公開されます。
 今回のエッセイでは、この「幕末維新博」開催に合わせて当館で紹介する資料を紹介します。資料の写真は、ここではまだ非公開と致しますので、ぜひ、ご来場の上でお確かめいただければ幸いです。

 まず、最初に紹介するのは「坂本乙女の帯」です。龍馬の姉・乙女が着用していた帯をこのたび、女子美術大学同窓会高知支部の御尽力と所有者である子孫の方の御厚意で、「里帰り展示」ができる運びとなりました。これまでにマスメディア等で発表したことはありますが、博物館施設に展示するのは初となります。
学芸員エッセイ「坂本乙女と吉行」
 乙女は、天保3(1832)年1月1日、坂本家に生まれました。3歳年下の龍馬とはたいへん仲が良く、彼の最大の理解者ともいえる人物でした。それを示すかのように、龍馬は脱藩後も乙女宛で多くの手紙を書いています。現在、私たちが龍馬の活躍を知ることができるのも、乙女の存在があったからこそと言えるのかもしれません。(写真は、龍馬の生まれたまち記念館内にある龍馬と乙女の像)
 本資料は、乙女の嫁ぎ先であった岡上(おかのうえ)家が、現在まで大切に守ってきてくださったものです。乙女の死後、娘・岡上菊栄(きくえ)が形見として持っていたこの帯は、やがてその子、その孫へと継承されました。今回の特別展示では、菊栄関連の資料もいくつか公開いたします。
学芸員エッセイ「坂本乙女と吉行」
 菊栄は、社会福祉施設「博愛園」の初代園母としても知られ、ここで多くの孤児・孤老を世話しました。高知市内の丹中山(たんちやま)には菊栄の墓(写真の前列向かって左)があり、「おばあちゃんは孤児橋本愛子を抱いてここに眠る」と刻まれています。なお、写真の後列向かって右端が乙女の夫・岡上新甫(樹庵)、同じく中央が乙女の息子・赦太郎の墓です(乙女の墓は、同じく丹中山内の坂本家墓所にあります)。
 乙女は、慶応3(1867)年に樹庵と離婚して坂本家に戻っていますが、明治4(1871)年に樹庵と赦太郎が病没したことで、孤児となった幼い菊栄を育てることとなりました。乙女は、菊栄に対して武芸や学問、礼儀作法などを幅広く教えたと伝わっています。

 次に紹介する資料は、坂本龍馬の持っていた刀と同じ銘を持つ脇差「吉行(よしゆき)」です。高知県内の個人宅に所蔵されていたもので、このたび専門家の鑑定もいただき、展示できることとなりました。
 吉行は、慶安3(1650)年、摂津国(現・大阪府)に生まれた刀工で、本名を森下平助といいます(後に養子に出たことで山岡平助とも称しています)。大坂で修行を積み、やがて「陸奥守(むつのかみ)吉行」または「吉行」の銘を受領。土佐には元禄年間(1688~1704)に移住しており、ここで鍛冶奉行として優れた刀を生み出しました。
 龍馬所有の吉行は、慶応3(1867)年、兄・権平から土佐を訪れていた西郷隆盛を経由して龍馬に渡されています。よく、小説などで「脱藩前の龍馬に姉・栄(えい)がこれを託した。栄はその責を負って自害した」というエピソードが記述されていますが、史実ではないと考えられています。乙女や菊栄が眠る丹中山には、栄の墓(嫁ぎ先である柴田家の墓所内)もありますが、そこには弘化2(1845)年9月13日に没したことが刻まれています。つまり、龍馬が脱藩した文久2(1862)年に刀を渡すことはできないということになります。(写真は、栄の墓と没年を刻んだその側面)
学芸員エッセイ「坂本乙女と吉行」

学芸員エッセイ「坂本乙女と吉行」
 昨年、「龍馬の遺品と伝わる京都国立博物館所蔵の刀が、科学調査等の結果、暗殺時に所持していた吉行であると判明した」と同館が発表しました。龍馬は、この吉行で刺客に反撃を試みたようですが、あまりの急襲にそれは間に合わず、鞘に入ったままの状態で攻撃を受けとめました。しかし、敵の凶刃はその鞘を割り、龍馬の頭部に致命傷を与えたのです。
 今回当館で展示する吉行は、龍馬のものではありません。しかし、同じ刀工が作った貴重な資料です。ぜひ、会場に足をお運びいただき、乙女の帯と並んでその美しさを確かめてください。

 龍馬の生まれたまち記念館では、「幕末維新博」に合わせて様々な取り組みを考えております。ぜひ、当館からの情報発信をチェックいただければ幸いです。


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