学芸員エッセイ その4 「龍と恐竜」
龍と恐竜
龍馬の生まれたまち記念館では、毎年春に企画展「龍馬の歩み展」を行い、坂本龍馬の生涯を紹介している。今年は「長崎・下関へ」と題して第3章を開催した。来年は、いよいよこのシリーズの最終章である。海援隊結成から龍馬暗殺、その後の日本までを紹介する予定だ。
企画展の準備は先月から始めており、最終章に相応しいだけのクオリティを目指している。その中で特に苦労しているのは、魅力的ではあるが複雑な龍馬の人生及び幕末史をどのように分かりやすく伝えるかという点である。前述の第3章では、アンケートで「子どもが楽しめない」「すでに知っている人は言葉でわかるが、まだ知らない人には難しい」といった声をいただき、これは次の課題であると感じた。
そこで、最終章の展示では、「複雑な歴史的事項を理解しやすくするために、図表や演出を充実させねば」といろいろ考えている。その一つが、第3章の時に取り入れた「木工どうぶつ劇場」の継続及び発展である。これは、幕末史の人物を木工動物で表現し、来館者に楽しんでいただくというもので、この時は龍馬に見立てた「龍」と「馬」及び後藤象二郎に見立てた「象」を並べて屏風や盃を配置し、1867年に行われた「清風亭会談」を演出した。龍馬と象二郎は、この会談で身分の違いや過去の因縁を超えて手を組み、その後の日本に大きな影響を及ぼすのである。
この木工動物を作ってくださったのは、間伐材から様々な作品を生み出し、当館でのワークショップなどで講師も務められている高芝俊信さんである。最終章では、高芝さんに新しい作品を依頼し、それを使用させていただくことで、よりいっそうの展示の充実を図る。
今回、高芝さんには4種類の動物を作っていただいた。その写真を2枚だけ公開しよう。
これは、福井県で発見された大型の草食恐竜で、フクイティタンである。フクイティタンを日本語にすると「福井の巨人」である。その巨体ゆえに名づけられた恐竜であるが、今回の展示では福井藩主・松平春嶽に見立てている。春嶽は、幕府の政事総裁職を務め、海軍操練所建設の資金を融資するなど、幕末史に大きな影響力を及ぼし、龍馬とも深い関わりがある人物だ。現代社会では、偉大な人物を「巨人」と表現することがあるが、まさに春嶽は「福井の巨人」にふさわしいといえよう。
次に同じく福井県で発見された草食恐竜でフクイサウルスである。2003年に学名がついて新種認定されるまでは、「フクイリュウ」とよばれていた。この企画展では、これを福井藩士・三岡八郎(のちの由利公正)に見立てている。龍馬が「土佐の龍」ならば、三岡は「福井の龍」というわけだ。三岡は財政に長けた人物で、維新後は東京府知事や元老院議官などを歴任したことでも知られている。龍馬は、暗殺の直前に福井を訪れて三岡と対談しており、その後、後藤象二郎に対して「新政府の財政担当は、三岡以外考えられない」という内容の手紙を送っている。その手紙は今年NHKの番組内で発見され、たいへん話題となった。
今回の企画展は、龍馬と福井の関係を「龍と恐竜」にちなんで表現する。なぜ恐竜なのかというと、福井は恐竜の化石がよく発見されることで有名であり、大人気の県立恐竜博物館も存在するからである。
あとの2体は企画展に来られてからのお楽しみである。「龍馬の歩み展 最終章~京都へ~(仮)」は、来年の4月25日(土)~5月24日(日)まで行う予定。皆様に納得していただける企画展になるよう、邁進する所存である。